【第7話 BOOM! BOOM! BOOM!】   [ イングラム  作 ]

−前編−

「で、引き受けちゃったの?」
水原一朗探偵社の事務所で、コンピュータをはさみ、デスクにおいた両腕にアゴを乗せた本城茜は、少し上目遣いでじっと水原を見据えていった。
「あ、ちょっと面白そうだったからね」
「あのねぇ……」
と、茜はひと呼吸おくと
「家賃の請求が12万円、水光熱全部ひっくるめて4万2千円、携帯代がふたり合わせて6万8千円、加入電話が3万7千円、国民年金、国民健康保険、駐車場代、今月、市之丞くんは車検なんだからねっ。食費とかなんとか全部合わせて経費いくらかかると思ってんのよ。ゲンさんに呼び出されたときから不安だったんだけどさあ、県警本部からギャラは出んの?」
一気にまくしたてた。
「あ、聞くの忘れた」
「おばかあぁぁぁぁっ!」

時間は3時間ほどさかのぼる。
「マルガイ(被害者)がバイクを停めて、降りたところを鈍器で撲殺か」
県警本部の源田警部は現場の様子を見ながらいった。
バイクのヘッドライトは点灯されたまま、エンジンも動いたままだった。その脇にマスコミ用語でいえば「少年」が血まみれになって倒れていた。もちろんこと切れている。
逆立てた金髪は乾きはじめた血で本人が決して意図しなかったであろう色に染まり、その色は派手な色のTシャツにも、下着が半分見えるほど下げられた大振りのジーンズにも付着していた。
「ヘルメットは?」と源田が聞くと、安田という中堅の捜査員が答える。
「かぶっていなかったようです」
「若いな、身元は?」
「所持品によると」と安田は手帳を取り出し、
「西村浩二17歳、私立城東高校の1年生です」
「1年生? 年が合わないな」
「あ、ほんとだ……、あれ? すんません、調べときます」
「盗られたものは?」
「それがですねぇ、変なんですよ」

「金属プレ−ト?」
「ああ、どうもそれだけらしいんだ」
源田に急遽呼び出された私立探偵水原一朗は、おでんの屋台に入りそんな会話を交していた。
「金属プレ−トに彼女の名前と誕生日が彫ってあったらしい。彼は肌身離さず身につけていたようなんだがな、それが見つからないんだ」
源田がいうと、水原は薄笑いを浮かべた。
「そんなものを盗るために人ひとり殺したと、本気か?」
「それが本当かどうかは別にしてだ、現実にはそれがなくなっている。マルガイの友だちという男が確認した」
水原は興味のなさそうな顔で大根をつつきながら聞いた。
「金は取られてないの?」
「サイフはあったんだよ。所持金は千二百円程度だがな。で、問題はその金属プレートなんだが……」
それは“歌姫”と呼ばれる女性人気歌手が恋人と目される男性アイドルに贈ったことに端を発し、10代の間で男女をとわず一気に火がついたファッションアイテムだった。
水原は結びこんにゃくを口に放り込みながら、
「なるほど。で、あたしにいったいなにを期待してるんで?」
「知恵がな、借りられたらなと思って」
「人材がいないの? この県の警察には」
「まあ、そういうな。お前さん、ここのところいろんな事件に首突っ込んではなんとかしてるからな、個人的にちょっとあてこんでるんだよ。で、どういうことだと思う?」
「県警ではどう見てるんだよ。お手上げってことはあるまい」
「何年か前にはスニーカーでそんな話がよくあったろう。グレーと黄色のがどうしたとかいって、特定メーカーのシューズを手に入れるために恐喝事件や果ては殺人まであった。そういう類いじゃないか、と見てる」
「それは……ないな。そのプレートとやらがサラでさ、大量に盗まれたってならわかるよ。個人の持ち物だってことは、そこにはだれか女の名前が彫られてるわけだ。そんなそいつにしか価値のないもの盗ったってしょうがないだろう。それを盗るということは……」
「痴情、怨恨……か」
「まだ早いよ。あんまりなんにももってないからヤケクソでもってった、犯人が気の弱いヤツで、自分がしでかしたことに気が動転して一番目についたものをもってった、あるいは背景になにかあって何か特別に意味のあるものだった、なんて可能性はつぶしきれてないんだろ?」
「なんだその背景って」
「何かの取り引きに使う符号になってる、とかさ。古い言葉でいえば割り符だな」
「17歳だぞ」
「と、あんたたちは考えるわけだ。だとしたら、ヤクザ屋さんがパシリに使うにゃあベストなキャスティングだあね」
「なるほど。…………、しかし17歳か。若いのが死ぬのはやり切れねぇよなあ、水原」
「年寄りだってやり切れねぇよ」
そうしてふたりは「またなんかあったら頼むよ」「はいどうぞ」と挨拶をかわして別れたのだった。

翌々日の夕刻、水原一朗探偵社で、水原と茜は西日をいっぱいに浴びながら不機嫌だった。昭和カフェに食事に行こうとしたところに源田警部がやってきたのだった。源田の表情は深刻だった。
「ゆうべ、またひとり殺された」
殺されたのは建設作業員の山口弘、やはり17歳だった。解剖の結果、死因は鈍器で殴られたことによる頭蓋内出血と診断されていた。
「で、また金属プレートが?」水原は少し興味を引かれたように聞いた。
「いや、今度はそもそも持っていなかったようだ」
「あら?」
「でも手口はよく似てるんだ。人気のない深夜の、裏道に入りこんだところで、待ち伏せて鈍器で殴る」
「まあ、お手軽な方法だこと」
「そう、茜ちゃんにでもできる」
源田は真顔でいった。水原は笑っていった。
「いやいやアカネなら、鈍器なんかなくてもそのぐらいはできる。被害者の所持品は?」
「バタフライナイフをもってたんだよ。不思議なことに」
「要するに被害者は、自分が襲われるなんてこたあこれっぽっちも思ってなかったわけだ」
「今度も被害者の乗ったバイクのエンジンはかかったままだった。状況が似すぎてるんだよ。あまりにも」
「犯人の目的は?」
「覚醒剤」
と、源田は、山口のアパートから発見されたという覚醒剤を見せながらいった。解剖の結果、山口弘自身かなりの常用者であったことが判明した。しかし遺留品の中に覚醒剤は含まれていなかった。
「奪われたってことか」
水原がいうと、源田は大げさにうなずいてみせた。
「金属プレートと覚醒剤、ねぇ」
「おかしな話だろう。どう思う?」
「まあ、どちらも流行ってはいるんだろうがな。先の学生さんからは反応出たのか?」
「覚醒剤反応は出てない。おせじにも真面目な学生とはいえなかったがな」
「ダブってんだって?」
水原が聞くと、源田の表情が固くなった。
「中学のときに、人をひとり殺してるんだよ」
水原の表情がひきしまった。
「なかなか、香ばしいやつだな」
「集団暴行による傷害致死の共犯てことなんだが、未成年ということもあって保護監察処分ですんでる。その後となり街に引っ越して、1年ダブってそれで終わりだ」
水原は少し考え込んだ、それでは金属プレートの説明がつかないのだ。が、それは長く続かなかった。
茜がブルブルと身を震わせはじめたからだ。
「アカネ、どした」
と水原が声をかけるやいなや、茜はますます大きく身を震わせて、かすれた小さな声でいった。
「そんなやつ……」
「あ、なんだ?」
「そんなやつ、百回でも死ねばいい」
「なにを!?」
「そんなの死んだってちっともかまわない。殺されようがなんだろうがどうだっていい。そんなやつ殺した犯人なんて、別に探してやる必要なんかないよ。ピンちゃん、降りようこの事件、ねえ、降りようよ」
水原は困惑した。茜がこんな態度を見せることはかつてなかったことだった。
泣いているようにも見えた。
「どうしたんだよ、アカネ」
「どうもこうもないっ! そんな話になんか関わりたくないっ!! ゲンさん、帰って」
手がつけられそうになかった。茜は明らかに取り乱していた。水原は「しゃあねぇなあ」という顔をすると、源田にまたのちほどと告げた、源田は何が起こったのかわからないまま帰っていった。

昭和カフェのテーブル席で、水原と茜は対面に座ったまま黙っていた。
日はとっぷり暮れていた。
暗めに設定された暖色系の照明がメコンウィスキーの琥珀色をよりいっそう際立たせていた。
岡林信康の『クソクラエ節』が流れていた。

♪ある日学校の先生が 生徒の前で説教した
 テストで百点とらへんと 立派な人にはなれまへん
 クソクラエったら死んじまえ クソクラエったら死んじまえ
 この世で一番偉いのは電子計算機

「でだ」
水原がゆっくり口を開いた。
「なんだったんだよ、さっきのアレは」
「…………………………」
「オレが勝手に捜査の手伝い引き受けてきちゃったのが気に入らないのか?」
水原はミスリードを試みたが、茜はかぶりを振っただけだった。
「じゃあ、なんだよ」
「……………………、ごめん」
「いや、謝ってくれっつってるわけじゃないんだよ。なにがあってあんなこといったんだって聞いてるだけだよ」
「……………………、ごめん」
水原は両手を広げて身悶えした。頭を掻いたり、鼻をつまんだりして、得心の行く回答が出てこないことに苛立っていた。
「あのなあ……、お前なあ」
「アカネ」
「アカネなあって、そういうところはきっちりいうのかよ」
「だってヤなんだもん」
「だからさあ、なんであんなこといったんだって、そっちの返事をくれよ」
「………………、降りられないんだったら」
「なんだって?」
「降りられないんだったらあたしだけ外して」
「そうはいかない。いろいろ手伝ってもらわないといけないこともあるしなあ」
「事務所でできる範囲で精一杯するから! 絶対迷惑かけないから、お願いします。あたしだけ外してくださいっ!!」
茜はテーブルに両手をついて頭を下げた。茜が“ですます”でものをいうことなど考えられなかった。
「だから、もう、なんなんだ!? あのなあ、どんなことであれ仕事なんだぞ」
「いや。学校関連の事件は絶対にいや!」
水原は立ち上がって茜の胸ぐらをつかんだ。
「おい、のぼせんなよ」
茜は水原の行動に驚きながらもにらみ返した。
「話の順番が違うだろうがよ」
「……………………」
「アカネ、オレたちの仕事はなんだ」
「…………………………、たんてい、です」
「それはどういう仕事だってオレはいった?」
茜は目をそらした。
「人が……、理不尽に背負わされてることを……、ちょっとでも軽くするための、手助けをしてあげること、です」
「そのためには? なにが必要だっていったよ?」
「まず、その人が……、背負わされてることを…………、受け止めること、です」
「覚えてたんだな。じゃあ、アカネはいまなにをするべきなんだ」
「……………………」
「それがわかってて、なんであんなこといったんだ」
「………………、いえない。…………、いいたくない」
「あのなあっ!」
店内にデュークエイセスの『Oh!チンチン』が流れた。

♪Oh!チンチン Oh!チンチン
 あのチンポコよ どこいった

「き…………、」
水原はカウンターの太子橋今市を振り返った。
「緊張感をそいだなあっ、おまえっ!」

事務所に帰る間も、帰ってからも、水原は茜にひと言も言葉をかけようとはしなかった。帰るなりさっさとシャワーを浴びて寝てしまった。
茜は不安になっていた。
水原が、明らかに怒っている。
学校関係の事件には首を突っ込みたくない、というのは本当だった。しかしそれがなぜかを説明することはもっと苦痛だった。どうしても触れたくないことに触れ、思い出したくないことを思い出さなければならなかったからだ。
しかしこのまま今回の仕事への関与を頑なに拒み続ければ、水原は自分を「使えない」と判断するかも知れない。
そのときは、自分が居場所を失うことになる。
茜は水原一朗探偵社が気に入っていた。それを取り巻く人間たちが気に入っていた。そしてこの事務所のある街を気に入っていた。それは失いたくないものだった。
自分の思いと失うものの大きさを、茜は天秤にかけていた。
しかしその天秤は、いつまでたってもどちらにも傾こうとはしなかった。
長い長い夜が茜を包んでいた。

事態が動いたのは翌日の夜もずいぶんおそくなってからのことだった。
水原の携帯に源田から連絡が入った。すぐに出てきてほしいという。
同じような状況でまた少年が殴られ、重体となって救急車で運ばれたというのだ。
「アカネ……、ああ、いいや、寝ろ」
茜の目の周りにはくっきりとクマができていた。前夜、一睡もできなかったのだ。
「ピンちゃんっ」
「ああ? 無理するな。いいから寝てろ。いますぐアカネをどうこうしようなんて考えてないから、な」
「…………、うん。………………、ごめん」

水原が現場に到着すると、源田が厳しい表情で携帯電話を握りしめていた。
やはり今回の現場も賑やかな表通りから一筋入った裏道だった。いくつかの血だまりができていた。遺留品の位置にチョークで印をつけ、番号札をたて、写真を撮りと鑑識課員が慌ただしく動き回っていた。
「わかった。おまえはそのまま解剖にも立ち会え。お疲れさん」
源田は電話を切ると、水原を振り返った。
「三原からだ。たったいま救急車の中で死んだそうだ。頭蓋骨陥没骨折に脳挫傷、首の骨も折れていたそうだ。マルガイは玉田雄一郎17歳」
「で、今度はなにを盗られたって?」
「それがだな、おそらくなにも盗られちゃいないはずなんだ」
「あら? そうなの」
「発生直後にたまたまとおりかかった主婦が、現場から大慌てで逃げる乗用車を目撃してる」
「なんで、発生直後?」
「その主婦が現場でマルガイを発見したときにはまだ息があった」
「ふーん、なんかカッパいでくヒマはなかったってことか」
そのとき、また源田の携帯電話が鳴った。三原か、どうした、といったまま源田は黙っていた。三原の話はすぐに終わった。源田は電話を切ると水原に声をかけた。
「リロ、今度ぁなんだって?」
「マルガイが息を引き取る間際の言葉を救急隊員が聞いたそうだ」
「ほぉ」
「『チョー』だそうだ。…………、なんだと思う?」
「…………腸が痛い」
「頭なぐられたんだって。そんなとこ痛がってどうする」
「チョーむかつく」
「忌まわの際の言葉としては、むなしいなあ」
「いずれにせよそれだけを考えててもしゃああんめぇ。金属プレートと覚醒剤、んでもって『チョー』……か」
「で、手口はまったく同じなのになかなか結びつかない」
「あの、アテにしててもらって悪いんだけどゲンさん……、オレ、今日は帰っていいかなあ」
「茜ちゃんか」
「ああ、ちょっと普通じゃないんでな」
源田は急に呼び出してすまなかった、と水原を解放した。

事務所の灯りは消えていた。
「寝たのか」とつぶやくと水原は寝室に向った。事務所兼応接室になっている部屋を通り過ぎようとしたとき。
「ピンちゃん」
「うわあっ!!」水原は約80センチ跳び上がった。
「な、な、なんだ、起きてたのか」
PCの陰に突っ伏していた茜が上半身を起こして座り直した。
「ずっと、考えてた」
茜はじっと水原を見た。真っ暗な部屋の中に沈黙が流れた。
「昼間はごめんなさい。…………やっぱりあたし、この仕事、降りないことにした」
「そうか」
「あしたは、なにしたらいい?」
「お留守番」
「へ!?」
「あしたは、やめといたほうがいいよ。ちょっと刺激的だから」
翌日水原は第一の事件の被害者、西村浩二が通っていた学校に出かけるつもりだった。茜は「学校絡みの事件が嫌だ」といったのだ。つまりグレた少年にではなく、学校そのものに茜の拒絶したいなにかがあるはずだった。それがなにであるのかについていま問いつめても、それはただ茜を追い込むだけのことだ。ならばいきなり茜を学校に連れていき、刺激を与えることは避けた方が得策だった。水原はその旨を遠回しに茜に話した。
「考えなきゃならんことが、全部氷解したわけじゃないだろう?」
「…………、うん」
「だったら無理はしないほうがいい」
「…………でもね、あたしどっかで無理しないといけないと思ったんだ。状況を打開するためには、どっかで無理をしないと」
「それがいまでなきゃいかん理由はないだろう」
「あたし自身が、いまその気になれてるからってのは、理由にならない?」
いずれにせよ言い出したら聞かない性格だということは、茜が来て以来、水原にもつかめていた。好きなようにさせてみるか、そう思い直していた。

翌日、愛車・市之丞くんに乗り込んだふたりは、私立城東高校に向った。
その道すがら、水原も茜も会話をかわすことはなかった。水原はひとまず好きなようにさせるつもりでいたし、茜は茜で緊張していた。水原は前を、茜は足下をじっと見据えたままだった。
水原は学校近くのコインパーキングに市之丞くんを止めると、茜を促し車外へ出た。茜も黙って続いた。
城東高校は15年前にできたばかりの比較的新しい学校だった。
いかにもバブル期に建てられた校舎は、流行りの建築家が外観をデザインし、空間プロデューサーという、いまとなっては胡散臭さのただよう職業となった連中が数多く立ち入ったのだろうと思われる現代的なデザインが施され、高校生世代にはさぞ魅力的なものなのだろうと思われた。
しかし「それも遠目に見れば」という条件がつくのは少し近づいてみればすぐにわかった。
築15年の校舎はお世辞にもきれいとはいえなかった。
外壁にはスプレーを使った落書きを上から塗りつぶした痕がいたるところにあることが校門を抜ける前から目立っていたし、三階の窓の破れたガラスを業者が取り替えている様子も見て取れた。
水原が茜の異変に気づいたのは、おいこりゃちょっとひでぇなあ、と振り返った刹那だった。
顔が土気色になった茜が茫然と校舎を見上げていた。
「おい、アカネ、どうした。顔色がひどいぞ」
「でしょ。調子、悪いっつーの。…………、へへ」
「アカネ……」
「ピンちゃん、あたし…………」
茜が一瞬泣き出しそうな表情を見せた。
「どうしたんだよ、おい、アカネっ」
「き、気持ち悪い………」
茜はその場にうずくまると、敷地脇にある少し大きめの側溝まで這った。
そして吐いた。吐瀉物はあとからあとから止めどなく出てきた。
茜が吐き出す間隙に小さな声でなにかを訴えていた。
水原に聞き取れたのは「もう楽になりたいよぉ」というひとことだけだった。
この日の調査は諦めざるをえなかった。

「アカネを」
太子橋今市はメコンの水割りを作りながら、複雑な表情の水原にいった。
「あんまり追いつめちゃいけないよ」
茜に休むよういって、ひとりで昭和カフェにやってきた水原は、もう3杯めのメコンを空にしようとしていた。座ってからひとことも言葉を発してはいなかった。
場違いに明るい『真夏の出来事』が平山みきの低い声で流れていた。
「なんか背負い込んでるのは確かだし、それがピンちゃんにとっては取るに足りないことでも本人にとってはさ、重たくてつぶされそうなことかも知れないじゃん。当然わかってるとは思うけど」
「……………………」
「アカネが自分で言い出すのを待てばいいっていったのは……」
「イマイチっ」
「……」
「悪い、ちょっと考えたいんだ。黙っててくれ」
そうはいっても水原とて、考えが整理できるとはとても思っていなかった。
考えはこんなことになっていた。
『金属プレートと覚醒剤の間に茜との接点は見つからないが茜が背負っているのは間違いなく学校問題でありなにもとられなかった第三の被害者の「チョー」は甘えて逃げているわけではないはずの茜が嘔吐するほど体にまで反応が出てしまうというのはやはり時間があれば第三の被害者である玉田雄一郎はなにを盗られるはずだったのか』
水原の思考は混乱していた。
「あああああああっ、もうっ、わからんっ!」
出てきたばかりのメコンを一気飲みする。
帰る、と言い残して、出ていこうとすると太子橋が呼び掛けた。
「ピーンちゃんっ」
「なに」
「いつもニコニコ現金払い、よろしく」
「はいよ」
水原は「やれやれ」という面持ちで、上着のポケットに手を突っ込んだ。

事務所に帰ると今日も灯りは消えていた。時間は午前1時を回っていた。
水原はまた80センチも跳ぶのが嫌だったので、そぉっと事務所に入ると、いきなり灯りをつけた。
茜の姿はなかった。
茜の寝室をノックした。
「アカネ…………。アカネ、入るぞ」
ドアを開けてみたが、そこにもだれもいなかった。
部屋は特に片付いているわけでもなく、茜がそこにいてもおかしくない風情だった。テーブルの上には口の開いたポテトチップスの袋があったし、服をまとめて持ち出した様子もなかった。
もう一度事務所兼応接室に戻ると、PCの前に茜の携帯電話を重しにしたメモがあった。
『失望しちゃった(T△T)』
たったそれだけが書いてあった。水原はしばらくそのメモをながめていたが、すぐに握りつぶした。
「あんの、バカ娘が」
水原は電話の受話器を取り上げた。

県警記者クラブ・中央日報ブースで有本千晶が、「出てったあ? アホんじょうバカねが?」
麻雀荘『たぬきおやじ』で情報屋が、「茜ちゃんてあの元気娘のこと?」
昭和カフェで太子橋今市が、「わかった、もう動き出すはずだからハルピン組にも声かけとくよ」
大槻模型店で、大槻祐二が、「すぐ手配します。ウチのヤンチャ坊主どもならすぐ見つけますよ」
「あ、大槻の、ひとつ断わっとくがな、みつけてもあんまり手荒なマネは、しようとしない方が……」
「わかってますって。ミズさんとこの女の子になんかした日にゃ、あとでミズさんになにされっかわかったもんじゃねぇ」
「あ、いや、あとでじゃなくて、しようとするだけで……」
「大丈夫だいじょうぶ、必ず無傷で保護しますから、じゃ、連絡待っててください」
電話は切れた。
「いや、その場でとんでもない目にあうんだがなあ……。あいつはいい奴なんだが早とちりが玉にキズだ」
水原は自らの心当たりに顔を出すべく外に出た。茜に所持金はそれほどない。またすでに深夜なのだ、街から出てはいけないはずだった。
いくつかの呑み屋のネオン、24時間営業のファストフード店の灯りを背景に歩く水原を、十台単位のバイク集団が追い越していった、大槻が手配したという「ヤンチャ坊主ども」に違いなかった。
後続集団のひとりが水原に近づき「探偵さん、絶対見つけてやっからな」とひと声かけて走り去った。
「おーい、体にはくれぐれも気をつけろよぉ」
どうせ聞こえないので、小さな声で、しかし可愛く手を振っておいた。

ラーメンの青龍軒には寄らなかったという。居酒屋の猿人倶楽部にも顔を出してはいなかった。
茜が事務所に住み着いてから足跡をつけた場所、鉄板焼の「じゅうじゅう士」、喫茶店「まる虎ぽーろ」、うどんの「そば屋?」、焼き鳥の「CHIKITORI」などなど、心当たりはすべて回ってみたが、茜が来たどころか、見かけたものすらいなかった。水原は思った。
「しかしアイツ、食い物屋にしかいってないのか」
今夜中に発見する必要はあった。夜が明けて街が動き出したら茜には移動手段ができてしまう。よその街から働くために人も流入してくる。そのなかで23歳の女ひとりを見つけだすことは困難を極めるはずだった。
ヤンチャ坊主たちも夜中だから走りまわれるのだ。
とはいえ、水原自身、ただ闇雲に探すことはムダだと感じていた。感情まかせにひとりで動き回ってもその努力は徒労に終わる。手は打ったのだ。あとは仲間たちを信じればいい。そう結論づけたとき時計は2時を回っていた。

−中編−

茜の単独捜索をあきらめ、事務所に戻った水原は事件を整理してみることにした。
まず西村浩二が殺され、流行のプレートを奪われた。
翌日、山口弘が殺され、子どもたちの間で蔓延しつつあるとされる覚醒剤を奪われた。
さらに2日後、玉田雄一郎が殺された。たまたま主婦が通りかかったためになにかを奪われることはなかったが、死の間際に「チョー」という言葉を残した。
手口は3件とも「大通りから一本入った人気の少ない通りでいきなり後頭部を鈍器で殴る」というもの。
そして三人の被害者はほとんど無抵抗で殺されていること。
わかっている事実はこれだけだった。
「同一犯による連続殺人、盗まれたものはブービー・トラップ、ってとこが正解なんだろうなあ」
水原は口に出していた。
「無抵抗ってことは、よっぽど屈強なやつか、あるいは…………」
「わかんないのは動機だな。さっぱりわからん」
こうしたことを口にするようになったのは、茜がやってきてからの習性だった。考えを口にすると茜が「うんうん、それで?」「あたしの考えなんだけどさあ」などというわけだった。それで考えがまとまることもあれば、思わぬ意見で考えに新しい展開をみることもあった。
「なんだ、役に立ってたんじゃねぇか」
水原は苦笑した。
電話が鳴った、見つかったのかと水原は電話に飛びついたが、かけてきたのは源田だった。
「なんだ、ゲンさんか。遅くまでご苦労さんだねぇ」
『水原、三人の被害者がつながったぞ。前に話した、傷害致死事件な。三人ともその加害者だ』
「ほぉ。それ、もそっと具体的にはどんな事件?」
『その事件の被害者は木戸充、当時中学3年生で15歳。暴行に加わった人間は全部で五人いた』
「あとのふたりは?」
『秋葉健一と上野茂和。年齢は同じ17歳だが、同じ城東高校の1年と2年。玉田も城東高校の生徒だ』
「秋葉が1年だな。ダブッた状況は西村と同じか。わかった」
『あの学校な、イジメに対する取り組みには定評のあるところだそうだ。校長さんが熱心でな、退職後には市長選にも出馬を予定してるらしい。こんな事件があって悩んでるようだったがな』
「五人はそれ以後も素行が悪いわけ?」
『まあ、山口弘なんかは覚醒剤までもってたわけだからな。あとの四人も推して知るべしだな』
「なんで殺したの」
『木戸充のことか?』
「いちおう理由ぐらいはあんだろがよ」
『主犯格の山口の供述によると「チョーむかつくヤツだったから」らしい』
「そりゃまた」水原は吹き出した。
「世界一わかりやすい動機だな。で、『チョー』はどうなったんだ」
『長谷川という友だちがいた。2年前の暴行障害事件とは関係ないんだが、中学時代は木戸充と仲がよかったらしい』
「なに? 友だちの復讐?」
『プレート、覚醒剤、それにくらべりゃずいぶん流行らない話だなあ』
「それらについてはどう思うよ」
『偽装工作、だろう』
「2年間犯行を待ったわけは?」
『山口たちと仲良くなるため』
「ふーん。気の長いやつだなあ」
『やっぱり流行らない話だな』
「流行らない…………か」
『それはそうと、茜ちゃんはその後どうだ』
「家出した」
『なんだと? 捜索願いは出したか』
「出したよぉ、協力してくれそうなヤツらには全部。ただし、警察は除く」
『おまえなぁ……』
「いま県警に捜索願いを出したら、ひとり使いモンにならんヤツがでるぞ」
『…………三原か』
「そのとおり」
『お気遣いに感謝するぜ』
「どういたしまして。またなんかあったらよろしく。…………あ、ゲンさんっ」
しかし電話は切れていた。
「…………、ギャラ交渉するの、忘れた」
水原は部屋からメコンウィスキーを持ち出すと、ロックで煽りはじめた。
「流行りのプレート、流行りの覚醒剤、流行りから定着してしまった『チョー』、それがいまどき流行らない復讐劇…………か」
メコンを飲み干し、じっと虚空を見つめていた。
「気に入らないねぇ」
夜が明けようとしていた。

遠くで音がする。なんだ、なんなんだ? でかい音だな。水原はぼんやりした頭でそう思っていた。
それが携帯電話の呼び出し音だと気づくのに少し時間がかかった。つい眠ってしまっていたのだ。時刻は6時8分だった。
水原は慌てて電話をとった。
「はい、水原」
『ミズさん、茜ちゃんを確保した』
「いたか……って、こら大槻の、なんだその確保したってのは」
『いいから、貨物の駅まで来てください。えらいことになってるんで』
「貨物の駅だな、わかった。すぐ行く」

市之丞くんがJRの貨物駅前に着いたのはそれから10分後のことだった。
水原が駆けつけると駐留されている貨物列車と貨物列車の間に茜がいた。
それは異様な光景だった。
茜は後ろ手に縛られ、両足も縛られ、あろうことか猿ぐつわまでかまさていた。目尻が切れ出血していたしほお骨のあたりも腫れていた。
それだけではなかった、茜の周りには10人を下らない暴走族が倒れ、うなっていた。
「なんじゃあ、こりゃあ。おい大槻の、どういうことなんだよ」
大槻は困惑した表情を浮かべていた。
「いや、あのねぇミズさん。この娘、こんなに強ぇならハナっからいってくださいよ。応援呼んで13人がかりでやっと取り押さえたんですよ。もう速ぇわタフだわ」
「いおうとしてんのにおまえが『わかってますわかってます』って電話切っちゃったんだろうが。あーあこりゃひでぇや」
水原は倒れている構成員をひとりつかまえ、
「おーい、大丈夫か? お前、なんか人間として形がヘンだぞ」
「い、痛いっス。あ、あの女、バケモンだ」
水原は大槻を振り返った。
「大槻の、おまえらなにやったんだ」
「なんにもやってませんって。いや、結果的に大乱闘になっちゃったんですが。この金竜……、金村竜一ってんですが、こいつがそこの作業場で寝てる彼女を発見しましてね、おい金竜、おめぇが説明しろ」
「はい自分らのグループが発見しまして、この人が大槻さんから探すよういわれた方だと思ったんで『本城茜さんですか?』と声をかけたんです。したら、自分の顔を見たな、と思った途端にウラ拳が飛んできて……」
金竜と呼ばれた男は、金髪に赤や緑のメッシュを入れた髪をかきながら、いかにもケンカっ早やそうな顔だち、近眼なのだろうか、睨みつけるような目つきで事情を説明した。
そりゃ寝てるときにこんなのがいきなり声かけてくりゃ、茜も「襲われる」と思っただろうな。水原は茜に同情した。しかし茜を探し出してくれたことへの感謝の意味をこめて黙っていた。
「で、若ぇのが『総長になにすんだ』って突っかかって乱闘が始まったと。そういうことかな? 金竜」
「はい。ところが本城さん強ぇのなんのって、自分ら“Black Impulse”は『喧嘩上等』で売ってますけど、こんな強い人に会ったの初めてっス」
「そして最後は13人がかりか」
「はい、いっせーので。そのぐらい強かったっス」
「ふん」と水原は笑った。
「本当に強かったら、こんなところで寝ることもなかったんだろうけどな。しかしよく見つけてくれたよ金竜、礼をいうわ。おい、大槻の、いいかげん拘束解いてやってくれ。アカネはもう暴れたりしないよ」
メンバーのひとりが大槻にうながされて、腰を引きながら茜の手首の拘束を解いた。茜は猿ぐつわを自分でほどくと、足の拘束を解こうとしていた男に「自分でやる。あっちいって!」といった。男は「ひっ」と変な声をあげて集団の中に逃げていった。
「礼はあらためてするよ。そろそろ堅気のみなさんがお仕事に励まれる時間だから、オレらヤクザもんはヤサへ帰ろうな。大槻の、それから金竜、ありがとうな。“Black Impulse”ありがとよ。とっつかまんじゃねえぞ。おうちに帰るまでが捜索活動だからね」
と、最後は小学校の先生のようにいって、水原は立ち尽くした茜のところに歩を進めた。
「さ、アカネ。帰るぞ」
「…………帰る。あたし、あたしが、事務所に帰る、っていってもいいの?」
「この街でアカネが帰るとこったらほかにないだろ。どこへ帰るつもりなんだよ。あんなとこで寒かっただろうが」
「慣れてるから」
「そんなことに慣れるもんじゃないよ」
水原はジャケットを脱いで茜の肩にかけた。

事務所に戻ると、水原は再び事件の整理に取りかかった。
茜は「シャワーだけでもいいから風呂入ってこい」といわれ、それに従っていた。
さすがに昭和カフェの「チャレンジモーニング」を試す気にはなれなかった。
事件はよくわからない展開を見せていた。少なくとも「流行りのものを奪う」ことの連鎖が第三の事件で切れたことで、それそのものが目的でないことはわかった、それがなにかのメッセージでないことも理解できた。「そうではない」ことがどんどん判明していくに連れ、考えは混迷を極めていた。
「これだってもんがなんにもないじゃないか。気に入らないねぇ。気に入らねぇぞまったく」
「ご、ごめんっ……。やっぱり、そうだったの?」
新しい洋服に着替えてバスルームから出てきた茜が、泣き出しそうな顔で水原にいった。
「違う違う、事件のことだよ。仲間を総動員して探したんだぞ。自信もってくれよ、らしくねぇ。『あたし雇ったら役に立つよ』っていったのはアカネ本人じゃないか」
「……うん。ありがと。あの、ピンちゃん……、ちょっと聞いてほしいことがある。頭乾かしたら、つきあってくれる?」
「あいよ」
茜は自分の部屋に入った。もう覚悟を決めようと思った。これまでひた隠しに隠してきたことを、少しだけでも話さなければならないと思った。
『自分のことを話したがらないのは、おまえにとって背負ってるもんが重いからだよな。大事なことは、アカネが背負ってるものをアカネ自身がどう解決するかだよ。オレらの仕事はな、人が理不尽に背負わされてることをちょっとでも軽くするための手助けをしてやることなんだ。そのためにはまずそれを受け止めてやらなくちゃな。ましてそれが自分自身のことならなおさらだ』
出会ったころ水原はそういった。そしてそれはウソでもかっこいいことをいっているわけでもなかった。それは、以後ついて回っていた自分が一番よく知っている。
自分が水原を信じていなかっただけなのだ。
「あたしの背負ってるものも、受け止めてくれるよね? ピンちゃん」
ドライヤーを握りしめて、ここに来てから迎えた誕生日に街の仲間から贈られた三面鏡に向ってつぶやいた。
「楽に……、なりたいなあ」

「例の事件はどうなってるの?」
頭からシャンプーの香りをただよわせながら、茜は声をかけるきっかけとしてそういった。
「謎のつくだ煮」
「なにそれ?」
「わからんことが山になってて思いきり煮詰まってる。情報がたりないんだよ。だれかさんといっしょでさ」
水原と茜の視線がぶつかった。しばらくの沈黙が続いた。
水原がニヤッと笑った。茜はホッとした。
「情けないことしちゃって、ごめん。いっぱい迷惑かけました。ごめんなさい」
「…………すんだことだ」
「あたし、あの城東高校ってとこいって、別にどってことないと思ってたの。学校は大嫌いだけど。でもまさか、体が拒絶するほどだとは自分でも思わなかった」
水原は両腕を頭の後ろで組んで、目をつぶり、黙って聞いていた。
「自分では勇気出したつもりだったのにあんなことになって。弱いなあ、あたしってこんなに弱かったんだって思ったら、自分に失望しちゃって……。でもそれでみんなにすごい迷惑かけて」
水原はやはり目をつぶって黙っていた。
「あたしね、強くなりたかったんだ。だれよりも、強くなりたかった…………」
水原が右目を開けた。
携帯電話の電源を切り、卓上の電話も音量をゼロにした。
メコンの水割りをもうひとつ作った。茜は「まだ朝だよ」と笑ったが「ありがと」と、なめるように呑んだ。

1996年、中学3年だった本城茜は、高校受験を控えていた。
もともと学校の勉強はよくできた。無責任な親戚のものなど「アカネちゃんは転んで頭でも打たん限り、東大、京大は間違いないな」などといっていた。
しかし茜自身、学校の勉強がそれほど好きというわけではなかった。あんなものは数ある人間の処理能力の一種に過ぎないと思っていた。それを子どもの言葉で、ただし家族の間でだけこういっていた「学校の勉強は、バカでもできる」。
茜にとっての勉強は「わからないことがわかるようになること」そのものだった。そのことがただただ面白かっただけだった。
受験システムはもっと嫌いだった。親戚がいうように東大や京大に進学しようとすれば、それなりの進学校に行かなければ受験させてももらえないだろう。そしてそれなりの高校は、中学で勉強ができなければこれもまた受けさせてもらえない。
「なーんかさ、この1年であたしの一生全部決まっちゃうみたい」学校でときどきこぼしたものだった。
好きだった陸上部も3年の夏が過ぎればいわゆる引退である。スプリンターとしての茜は、いくつかのスポーツ名門校から声もかけられたが、茜には陸上競技で進学するつもりはなかった。
「えー、断ったの? もったいない。カンベエって欲がないねぇ」
友人は目を丸くした。友だちからは“カンベエ”と呼ばれていた。“アカネ”をもじって“アッカンベェ”、それが縮まったものだった。本人もけっこう気に入っていた。
「違うよぉ、その反対。あたしはね、そればっかりしかない生活が嫌なんだ。陸上で高校入っちゃったら陸上を辞める自由がないじゃない。高校には勉強で入る。で、陸上したかったらする。したくなきゃ辞める。そういうのがいい」
「ふうん。そういうふうに考えたことはないなぁ」
そして本城茜は翌年の4月、県内トップの進学校に優秀な成績で入学した。入学式には総代で挨拶もしたほどだった。

高校生活は順調にスタートした。
1学期の中間試験も好成績だった。茜はクラスで一目置かれる存在になっていた。“カンベェ”のニックネームも健在だった。同じ中学から進学した友人が人前でそう呼んだものが一気に定着したのだった。
しかし茜には気になっていることがひとつあった。日本史の成績が思わしくなかったのだ。それは「歴史の勉強」についてのアプローチに、茜本人と文部省の学習指導要領の間でギャップがあるからだった。茜は歴史を「因果関係の積み重ね」だと思っていた。しかし学校の勉強としての歴史は「それが何年に起きたことなのかを知っている」ことに重点が置かれていた。
茜自身そのギャップを埋めようとはしたわけではなかった。それは飲み込めばいいことだ。
ただ自分の考えが正しいものかどうかは確かめたかった。
茜はある日、意を決して職員室を訪ねた。茜のクラスで日本史を担当している教諭に会いに行った。
加島圭介というまだ教師になって2年めの男は、茜の話をじっくりと聞いてくれた。
「本城くんだっけ。きみの言い分はとても正しいよ。歴史は事実と年号さえわかればいいというもんじゃないんだ。人の営みというものがあってね。それがなにかのきっかけでひとつの事件になる。そしてまた人の営みの中で発展して、最後も人の営みの中で収束していくわけだ。きみのいう因果関係だよね。それを営々と積み重ねていくのが歴史ってもんなんだ。それが何年に起きたかなんて、本来は二の次三の次の話なんだよ」
茜はホッとした。
「本城くんは歴史に興味があるの?」
加島は嬉しそうに聞いた。自分の受け持つ科目に興味を示してくれる生徒がいることは教員にとっても喜びだった。まして加島は経験が浅いだけになおさらだった。
「うーん、ていうか、わかんないことがわかるってことが好きなんです。歴史に限らず」
「ああそうなの。じゃあね、ちょっと待ってね」
と加島はメモとボールペンを取り出すと、2、3冊の書籍のタイトルを書き出した。
「これ読んでごらん。きみの好きなスタンスで歴史を取り上げてるからきっと面白いと思う。図書室にあるから借りるといいよ」
「はい、ありがとうございます」
茜は紹介された本を読み、また職員室に出かけ、加島にその感想を語ったり、読んだ中で疑問に思ったことを加島にぶつけていた。加島はそれに対してひとつひとつ、ときには改めて調べてまで忠実に答えようとした。
それはほとんど日課のようになっていった。
新米教師はいろいろな質問をぶつけてくるこの生徒が嬉しかったし、生徒はわからないことがわかっていくことを喜んでいた。
ほんとうにただそれだけだった。

「カンベェ、ちょっと放課後つきあって」
と山下範子が茜を呼び止めたのは、そうしたことが二週間ほど続いたころだった。
範子は茜と同じ中学から進学したひとりだった。
範子は茜をファストフード店に連れていった。
「気をつけなよ。女子たちの一部であんたすごいことになってるよ」
「なに? なんのこと」
「あんた、日本史の加島先生に毎日会いに行ってるでしょ」
「うん。でもそれは……」
「でもじゃなくって。カンベェさあ、加島先生が女子の間で人気ランキングトップなの知らないの?」
「そうなの? 全然知らなかった」
「あんたねぇ、そういうことちゃんと見とかないと、おんなは怖いよ」
「そういうことひらがなでいわないの。それにあたしだって女だよ」
「カンベェは、そうかぁ、男にあんまり興味ないもんなぁ。素直でいい子なんだけどね」
「すごいことってどういうことになってんの?」
「協定ができてんの。加島先生と数学の原先生には勝手にアタックしない。みんなであこがれてるだけにしようってことになってんのよ。カンベェは『わたしたちの加島先生に手を出した女』ってことになってんの。だから『許せない』って」
「そんな勝手な……」
「勝手なったって、そんな理屈はとおんないよ。女子なんてみんな『好きなもんは好きっ!』しかないんだから」
「あたしは……」
「とにかくっ……。言葉と行動には気をつけなよ。いまのあたしにいえるのはそれだけ」
山下範子はそれだけいい終えると帰っていった。
おおむねこうした友人からの忠告が発せられるのは、ことが顕在化したあとで、実際には手遅れであることが多いものだ。茜の場合もその例外ではなかった。
山下範子の忠告の意味は、翌日から茜が身にしみて思い知らされることになった。

異変に気づいたのは朝だった。
クラスの女子生徒があいさつをしても返事をしなくなっていた。
「ねぇ」と声をかけても聞こえないフリをして笑いながらどこかにいってしまう。
男子生徒に声をかけると、別の女子生徒が横から声をかけてどこかに連れていってしまう。
その翌日には授業中に教師から指名されて回答した茜に対して、どこからか「おりこうちゃんっ」「よくできました」とヤジが飛び、教室中がクスクスとした笑いに包まれた。教員は「こら、からかうな」といっただけで自分も笑っていた。その教師は茜のクラスの担任でもあった。
典型的なイジメの構図だった。

「その時点で……」
水原一朗はグラスの残り少ないメコンをグッとあおると、新しい水割りを作りながらいった。
「首謀者を見つけてケリをつけようとは思わなかったのか」
「だって、ただのウワサ話だと思ったんだもん」
「人のウワサも二ヵ月半ってか? そういう話がたったときは初期段階でモトから断たなきゃダメ。様子を見てると事態は確実に悪化するもんだ」
「あたしも、この商売……、ここでお世話になっていろんな浮気調査やってみてそれ初めてわかった」
「特にハズレのやつがそうだろう?」
「うん。なんで疑いかけられてる方が、もっと積極的にその疑いを晴らそうとしないのっていつも思う。けどね、当事者って、コトがそんなに重大だなんて思ってないんだよ……。あたしもそうだったからわかるんだ」
「アカネさあ、浮気調査やって、シロだってわかって感謝されたことあるか?」
「ない……。ないよ。あれ、なんでだろうね? 浮気してないんだったらOKのはずなのに」
「自分の身の上に起きてることを、金払って見ず知らずの他人に預けるんだ。その時点でもう疑ってなんかいないんだ」
「疑ってない?」
「正しくいえば『浮気してるに違いない、と信じて疑ってない』わけだよ。その証拠が欲しいだけなんだ。まあ、他人の猜疑心を金に代えてるわけだから、リロのいうとおり。卑しい商売かも知れないねぇ」
「あたし、ピンちゃんが卑しいだなんて思ったこと一度もないよ」
「リロだってオレを卑しい人間だなんていったことは一度もないよ。あいつはバカだ。どうしようもなく、救いようのない、たぶんCTスキャンで頭撮影してもX線が脳を透過するぐらいのバカだけど、ありゃ『私立探偵なんてやってないで、ちゃんと捜査権もった立場になれ。社会に奉仕しろ』っていってくれてるだけなんだよ。悪いアドバイスじゃないし、オレをバカにしてるわけでもない」
「ピンちゃんにそのアドバイスを聞く気がないだけ?」
「この街のやつらが好きだしね。いっしょに地べたを這いずり回ってたら気持ちがいいってだけだよ。で? まだ強くなりたくなってないようだけど」

翌週、茜に対する姿を見せない攻撃は確実にエスカレートした。
まず靴箱の中に封筒があった。開封して手を突っ込むと指先に鋭い痛みが走った。指先から血が流れ落ちた。セロテープでカミソリの刃が止められていた。メッセージはただひとこと。『ざまあみろ』だった。
保健室で治療をしてもらうとき、校医から「なんで朝からこんなとこ切ったの?」と聞かれたが、メモ用紙を作ろうとしてカッターナイフの扱いを誤った、とごまかした。校医は「気をつけなきゃダメだよ」といっただけだった。
教室に戻るとみんなが密かに茜に視線を飛ばしていた。指先と顔色を交互にうかがっているようだった。なかにはクスクスと笑っている者もいた。机の中に紙が一枚入れられていた。『玄関のお前の薄汚い血を掃除してこい』とあった。
だれかが自分たちのしたことの成果を確認しながらさらに攻撃を加えていることは明らかだった。

『うーんイタズラにしてはちょっとひどいなあ』
たまりかねて、職員名簿から調べた加島の家に電話で相談した茜にその若い教諭はそういった。
イタズラ? 冗談じゃない。れっきとした傷害じゃないですか。先生、なんとかしてください。茜は思ったが、信じている先生のいうことだけにそうはいえなかった。茜は孤立しつつある自分に気づいていた。頼れるのはこの経験の少ない、担任も持てない日本史の教諭しかいなかったのである。これ以上そんなことが起きないように心がけておくよと加島はいい、また歴史の本を紹介してくれた。
茜はもう、日本史どころではなかったというのに。

その週の日曜日、茜は六月から衣替えで着ることになる夏の制服を買ってもらった。
学校で起きていることを親に相談することはなかった。心配をかけたくなかったのだ。外食を楽しんで、流行りはじめていたプリクラを母と一緒に撮った。茜の心の支えのひとつだった。
週があけると、攻撃は激化した。
もう学校の内部に留まらなかった。
月曜日の朝、茜の住む町内の人間は、朝刊とともにある手紙を受け取っていた。
『本城茜の行状について』と題されたその書面には、茜が加島に対していかにいかがわしい行為をしているか、本城茜という人間がいかにふしだらで、男遊びが好きか、あることないこと(九割以上が作り話だったが)がA4用紙2枚に渡ってワープロの文字でびっしり綴られていた。
加島の名前が伏せ字になっていることが、攻撃者の動機を物語っていた。

「茜、これはどういうことなの? おまえ、学校でこんなことしてるの?」
いつものように孤立した学校から戻ってきた茜に、母がその文書を見せながらいった。
それは茜を逆上させるに十分だった。もうがまんも限界だった。
「お母さんまで……。お母さんまでそんなこというの!」
「違う! 茜、ちょっと聞いて」
「聞きたくないっ! もうたくさんだ。あたしがなにしたのよぉ。もうたくさん、みんな、みんな大っ嫌いだ!!」
茜はうなるような、震えた低い声でいった。その声は呪詛に満ちたといってもよかった。母もそのような茜を見たことがなかった。
茜は自分の部屋に飛び込んでカギをかけた。16歳にもなれば隠しておきたいプライベートなこともあるだろうと、母が取りつけたカギが親子を断絶しつつあった。
母は少し時間をおいて、茜の部屋の前にたった。ドアをノックしたが内側からドンと物音がしただけだった。茜が枕を投げつけたのだった。母は部屋の前に座り込んで、話しはじめた。
「茜。聞いてても聞いてなくてもいい。わたしの思うことをいうね。わたしがおまえを疑ってるなんてことがあるはずがない。おまえの言い分を聞きたかっただけよ。娘が辛い目にあってることは、この文書を読んだだけでわかるよ。娘が辛い立場にいるときに100パーセント味方できるのは親しかいないんだよ。それはわかってね」
ドアの向こうから反応はなかった。母は、さらに続けた。
「さっきはわたしのものの言い方が悪かった。ごめんね。よけいに傷ついたね。もうひとつ、おまえがこんな辛い目にあってるのに、今日まで気がついてあげられなくてごめんね。だっておまえ昨日だってあんなに楽しそうだったもの。日ごろの辛さのハケ口だったんだね。それと、わたしに心配をかけまいとしてくれたんだね。もう、こんな鈍い母親でごめんね。だからちゃんと言いたいこといって。いっしょに戦おう。言いたいことはそれだけ、気が向いたら顔見せて。どんなみっともない顔でもいいから、ね」
母は立ち上がって、居間に向おうとした、その刹那、ドアの向こうから茜の悲鳴のような泣き声が聞こえた。それは赤ん坊が機嫌を損ねて、母親にかまってほしいときにあげる泣き声に似ていた。

水曜の朝、本城家は近所の住人が鳴らすドアフォンと激しいノックの音で目覚めた。
「ちょっと、本城さん」
「なんですか、これは」
と住人たちが口々に言うのも無理はなかった。
近所中の塀や、門扉、玄関が直接道路に面している家では玄関ドアに、道路に、ガレージや車そのものにまでスプレーで、『本城茜 売女』『男がないと生きていけな〜い 本城茜』『●●先生きょうも激しく抱いて byアカネ』『茜、死ね』などなど、およそ人間の思いつくありとあらゆる悪口雑言が書きつけられていた。その範囲は半径200メートルほどに及んでいた。
「これなあ、本城さんのせいだとは言わないけど、始末はつけてもらわないとなあ」
「主人はこれから車で出勤なんですよ。会社にいけないじゃないですか」
「ウチはこの間門扉つけかえたばっかりなのに」
と抗議をする住民に茜はがまんならなくなった。
「あたしのせいだっていうの!」
そういった茜を制して母は茜の期待したこととはまったく逆の行為をした。土下座したのだ。申しわけございませんと。
母の行為に問題はなにもない。しかし茜は「わたしは100%おまえの味方だよ」といった母の言葉にすがりたかった。大人の社会的な関係性にまで思いをいたすほどまだ本人が大人ではなかった。
「お母さんの…………、ウソツキ」
小さな声で吐き捨てると、家の中に駆け込んだ。

茜は無言のまま登校した。休んだら負けだ。もう頼れるものはだれもいない。でも負けたくなかった。自分は何も悪いことなどしていない。こんな理不尽な話に負けてたまるかと思った。
その日の夕刻、緊急職員会議が召集された。
茜の母が、校長に訴えたのだ。
茜は期待した。犯人さがしが始まるはずだ。自分をいわれのないことで追い詰めようとした人間、指先にケガを負わせて笑っている人間、近所中に落書きして回った人間があぶりだされるはずだと、そしてまた平穏な高校生活が戻ってくるはずだと。
ところが事態はそんな進展を見せなかった。
「加島先生。1年2組の本城茜という生徒と先生の関係をご説明ください」
会議の議題はそこだったのだ。
学校側は茜に対するイジメ問題を、若い教諭と生徒との恋愛問題という、矮小なものに収めようとしていた。
加島は答えた。
「ぼくは本城の日本史に関する質問に答えただけです。彼女にそんなつもりがあるとは露ほども思っていませんでした」

翌日、茜は母とともに校長室に呼ばれた。
「事態がこうなった以上、なんらかの形で決着をつけなければなりません」
と、校長は威厳を気にしつついった。
「本城くん、退学届けを出しなさい」
「ちょっと待ってください!」
母は立ち上がっていった。
「悪いのは娘を無視したり、ケガをさせたり、近所に怪文書を撒いたり、落書きした子たちでしょう? どうしてその子たちが罰せられないで、ウチの娘が退学させられるんですか」
「その元を生んだのは本城くんです。それにケガの原因や、怪文書、落書きについては本校の生徒のしたことだという証拠がありません。他校の生徒の恨みをかっている可能性も否定はできません」
「それが証明されていないのにウチの子だけが処分され……」
「処分ではありません。決めなさいというアドバイスです」
「処分じゃないですか、事実上の」
「アドバイスです!」
「加島先生は、なんておっしゃったんですか?」
茜は聞いてみた。
「加島先生は……」と校長はいったん言葉を切った。
「きみが男女の関係を目的に自分に近づいたとは思っても見なかったといっている。そうと知っていたらきみと関わることはなかったと」
「校長先生っ!」母が力いっぱいテーブルを叩いた。
「……………………、もういい」
茜はうつむいてつぶやくようにいった。声がかすれてなかなか出てこなかった。最後の希望が断たれたと思った。
「もういいよ。退学届けでもなんでも出してやる。あたし…………、あたし……………………」
茜は、校章を外した。そしてそれを床にたたきつけながら叫んだ。
「あんたたちみたいな大人にだけはなりたくない。絶対になるもんか。自分たちの間違いを認めない卑怯者っ!」

話し終えた茜は声にならない声をあげて泣いた。
当時の悔しさと悲しさと絶望感を全部ぶちまけるように泣いた。
七年間溜め込んでいたものを吐き出すようだった。
水原は黙って見守っていた。

「そりゃあ」
と水原はメコンを口にしてつぶやいたのは1時間ほどたってからだった。
「そんじょそこらのヤツにはいいたくない話だいなあ」
「黙っててごめん」
「で?」タバコに火をつけながら水原はいう。
「その後学校はどうしたんだ」
「通信制の高校に変わったんだ。スクーリングっつって決められた何日かだけ学校にいけばいいの。好きな勉強好きなだけして、楽しかったよ。伯心流獅童剛気拳って拳法習いだしたのもそのころ」
「強くなりたくて?」
「うん。自分の身は自分で守れるようにしなきゃと思って。体が強くなれば心も強くなれるって思った」
「なれたのかよ、強く」
「ごらんのとおり。迷惑ばっかりかけてます」
「本当は、もうひとつ話さなきゃなんないことがあるんじゃないか?」
「……………………、それは」
「また今度でいいやね。また楽になりたくなったらいえよ。今日は楽になれたか」
「うん。話してよかった。でも、その後のことは、まだ」
「いいよ、その気になってからで。オレも追い詰めるようなマネして悪かったよって、あら?」
卓上の電話の着信ランプが激しく点滅していた。
茜が受話器をとった。
「はい、迅速丁寧殺人以外ならなんでもおまかせ水原いち…………」
茜の顔に緊張が走り、それを見た水原の表情が引き締まった。
「第4の事件。今度は学校の中だって」
「どうする? 現場」
「行くよ。もうあんなことにはならない、と思う」
「ほんじゃまあ、行きましょうかねぇ」

城東高校近くのコインパーキングに市之丞くんを停めると、水原と茜は校舎に向った。
「大丈夫か?」水原が声をかけると、
「うん、なんともないや」
校門をくぐり抜ける。茜には何の変化もなかった。
「無理するなよ。具合が悪かったらちゃんというんだぞ」
「大丈夫、なんならリロ蹴り倒して、上でツイスト踊ろうか」
「そんなものすごいことしなくていい」水原は苦笑した。

現場は校舎の2階にある教室のひとつだった。
例によって現場は鑑識などの職員でごった返していた。
「やられたよ。まさか校内で発生するとは思ってなかった」
源田はショックを受けていた。
「お、茜ちゃんじゃん。おひさ」
三原が声をかけた。
「うふふふへへへ、おひさ、リロ」
「こらリロ、ねえちゃんかまってねぇで仕事しろ。目撃者は?」
「偉そうにすんなよ、私立探偵風情が。マルガイはレポートの不提出で残されていて、担任教師は職員室、校内には部活の生徒が残ってたんだが、大半が運動部でな。事件を目撃したものはいない」
「で、こいつは秋葉、上野どっちなんだよ」
搬送される遺体をさして水原が聞く。
「上野茂和だ」源田が答えた。
「盗られたものは?」
「どうやら今回もなさそうだ」
三原が口をはさんだ。
「決まりですね、警部。この連続殺人は2年前の傷害致死事件が原因です。プレートや覚醒剤は、捜査を撹乱するための工作ですよ。どう? 茜ちゃん」
「すごいすごい、そんで犯人はだれなの?」
「それはぁ…………、今後の捜査によって、明らかにします」
「じゃなんにもわかってないんじゃん」
水原は気にかかっていたことを聞いた。
「仮にリロのいってることが……」
「リロっていうな!」
「うるせぇな、本論に関係ねぇことをさえずるな。このがきデカのいってることが正しいとしてだな、『チョー』とかいう長谷川なんとかはどうなるんだ」
「『チョー』は事情聴取したよ」源田が答えた。
「事情聴取をしていた時間なんだよ。犯行推定時刻はな」
「ほかにチョーの心当たりは?」
「こいつらのたまり場に『長介』ってうどん屋がある」
「こらリロ、うどん屋の親父を洗ってこい」
「あら? リロ、どうしちゃったの?」
三原は茫然としていた。
「……、が、がきデカ…………」
「こら、本論に関係ないところでコタエるな」
「水原、あんまりおちょくるなよ」
源田が苦笑したとき、茜が変なものを見つけた。
「ピンちゃん、ゲンさん、なにあれ」
それは掃除道具を収納するロッカーだった。被害者、上野茂和が倒れていた場所であり、被害者の血の痕がまだ生臭いにおいをたてて残っていた。その壁面に血でなにか書きなぐったような痕跡があった。
「被害者の指の跡のようだな」源田がいうと
「字に見えません?」茜が指摘した。
それはたしかに文字に見えた。
『木’』『木 ̄』
それぞれの端から垂直にたれている部分があるため、明らかにそうだとはいえないまでも、茜の指摘どおり文字として見て取ることは可能だった。水原はじっと観察した。
「木、か、コメ印か……。そいで、こっちは横棒か、点か」
源田の表情が緊張した。
「木戸、か」

−後編−

その夜、水原と茜は、源田とともに木戸家を訪ねていた。
木戸充の父、充彦は源田が事情を説明すると落ち着いた表情で答えた。
「そうですか、つまり私を疑ってると」
「あ、いや」
「事件のことはもちろん知ってます。私も新聞くらいは読みますから」
木戸充彦は冷静に事件を振り返り、自らの関与を否定した。
「最初の西村くんが13日で、山口くんが14日でしたよね」
「そのとおりです」源田が答える。
「私はそのとき出張で九州にいましたよ。帰ったのは15日の午後ですね」
「16日の夜は?」
「16日は日曜日ですね。パチンコに行ってたと思います」
「今日は?」
「ついさっき会社から帰ったところです」
部屋の中に沈黙が流れた。
「私を」
木戸の表情が険しくなった。
「疑うのは仕方のないことです」
源田が表情をこわばらせた。もともと確信があってきたわけではないのだ。木戸はさらに話を続ける。
「大した理由もないのに、ひとり息子を殺されたわけですからね。そして、充を殺したやつらはいうほどの罰を受けることもなく、反省もすることなく、のうのうと生き延びている」
茜が刺すような目つきをした。水原は茜の手をぐっと握った。
「そうしてもいいよ、とだれかがいってくれるなら、私だって殺したいですよ。けれど、そんなやつらでも、死んでしまえば悲しむ親はいるでしょう。子どもに先立たれたらどれだけ親が悲しいか、くやしいか、切ないか、やりきれないか、それは私が一番よく知っている。身をもって知ってるんですよ、刑事さん」
水原にも、茜にも、源田にもいうべき言葉はなかった。
暇を告げて帰途についた。
「水原、どう思った?」
「感情を抜きでいえば……」
水原はひと呼吸おいていった。
「九州からの日帰りは可能だな。けれど……」
「ありえないよ。あのお父さんが犯人だなんてありえない」茜の声は小さかった。
「ゲンさん。残りの秋葉健一はどうした」
「24時間体制で厳重警備してるよ」
三人は再び城東高校に戻った。

「聴取は終わったか」
源田が三原に声をかけた。
「はい。やはり目撃者はいません。校内には校長と数人の教員がいただけです。部活の生徒も大半が運動部ですから、いたのはグラウンドか体育館で」
「校長に話はきけるか?」
「いや、もう帰しちゃいました、ついさっき。あしたはマスコミが押し寄せるでしょうし」
「ネタとしては食いつきたいだろうからな」
「ゲンさん。行った方がいいよ。自宅にね」水原が口をはさんだ。

源田、水原、茜が校長の自宅に着いたころ、校長はまだ帰宅していなかった。
自宅前で待機していた三人の前に校長の黒塗りのクラウンが姿を見せたのは、それから一時間後のことだった。
校長は自宅前に設えた塩化ビニールの屋根のついた簡易ガレージに車を停めた。
「どうも」
源田は身分証明書を提示して挨拶をした。
「ああ、刑事さんでしたか」
私立城東高校校長は、池ケ谷康治という60がらみの男性だった。愛想がよかった。茜は水原の耳もとでいった。
「なんでこの人笑ってんのよ」
「黙ってろ」観察を始めていた水原は茜を制した。
源田の話が始まった。
「私たちより先に学校を出られたと部下から聞きましたもので、お待ち申し上げていた次第です」
「PTAの会長さんと会っておりました。善後策を検討しなければなりませんでしたもので」
校長は後部トランクを開け、ゴルフバッグを取り出した。
「ほう、ゴルフをされる」
「打ちっぱなしが専らですがね。それどころではなさそうですから、詰みっぱなしにはなってたんですが、やはり明日からのことを考えますと…………。ゴルフバッグがあったのではマスコミから糾弾されますのでね」
「なるほど。いろいろお気遣い、たいへんですな。事件もかなり重いのですが」
「頭が痛いですよ」
「これまでの被害者たちの……、彼らの素行をうかがいたいと思いまして」
「教育者としては、力がいたらなかったということに尽きます。私の力不足でした」
「いやいや、校長先生はよくやっておられるとお聞きしておりますよ」
「恐縮至極でございます」
そのとき、源田の携帯電話が鳴った。
源田の顔がたちまち硬直した。水原と茜も緊張した。5番目の犠牲者が出たことは確実だった。
「秋葉じゃないだと? なんでだ」

「秋葉健一は自宅にいることを確認しました」
清涼飲料水の自販機の前で後頭部を割られて倒れている少年の遺体を前に、三原が源田に報告した。
「自販機荒らししてたみたいだね。うわぁ、ひでぇなこりゃ、ゲンさん。うしろからめちゃくちゃに殴られてんね。やっぱ金属バットかなにかかねぇ」水原は遺体を覗き込んでいった。
「警部、マルガイの身元ですが……」
三原の報告をとなりで聞いた水原は唖然とした。これまでの流れとまったく関係ない人物が出てきてしまったのだった。

水原一朗探偵社の空気は重かった。
現場にいつまでもいることに意味がないと感じた水原と茜は、比較的早い時間に事務所に引き上げていた。
源田が事務所を訪れたのはそれから3時間後、日付けが変わったあとだった。
三原の報告によれば被害者は服部大輔23歳無職。自販機を荒らして回る常習犯だという。
「どう考えても」
水原はうなるようにいった。
「2年前の事件とは関係ないよなあ」
「2年前、服部は新潟にいた。今年になってからこの街にきたんだ。現在のところ、これまでの被害者との接点はない。盗られたものもな」
「困ったもんだな」
「しかし手口はまったく同じなんだよ。どう思う、水原」
水原はじっと考え込んでいた。
「もう一回時系列で、いま我々の目の前に起きてることを整理しよう。2年前、木戸充という少年が殺された。手をくだしたのは西村浩二、山口弘、玉田雄一郎、上野茂和、秋葉健一の5人だ。2年後になって西村がまず殺された。このときはブームの金属プレートのペンダントを奪われた。翌日には山口が覚醒剤を奪われて殺される。その2日後には玉田が。しかしこのときはおばちゃんが通りかかったため、なにも奪われてはいない。ゲンさん、おばちゃんが見たっつー車の種類はわかったのか?」
「いや、黒っぽい乗用車というだけだ」
「で、玉田は『チョー』という言葉を残している。チョーに該当しそうな木戸充と仲のよかったという長谷川なにがしは、次の事件で完璧なアリバイがある。なにせ県警本部の警部さんが事情聴取の真っ最中だったんだ。その間に上野茂和が殺される」
水原はメモ用紙に大きく上野の書いた文字のようなものを再現した。『木’』『木 ̄』。
「こりゃなんて書こうとしたんだ。最もわからないのはその次だ」
茜が口をはさんだ。
「プレートのペンダントや、覚醒剤を奪ったのは、木戸の死と今回の事件が無関係だと見せかけようとしたんだよね」
「けれどそれはもう崩れた」
水原が否定する。
「この手の事件は動機さえはっきりすればおよそ犯人の目星はつくんだがなあ。そこがわかんないんだわ。わかっているのはどの角度から見ても、同一犯による連続殺人だってことだけだ」
「どうして服部大輔は殺されたんだ、水原。残っている秋葉は警察が厳重に警戒しているから手が出せない。まさかその代わりならだれでもいいってわけでもないだろう」
「ここで無関係な人間をひとりやふたり殺したところで、連続殺人の線は消えないもんな」
「無関係じゃないとしたら?」茜が再び口をはさむ。
「アカネならどこにどう関係性を見い出す?」
「それは…………、ちょっと考えさせて」
茜は水原になにか考えがあることを期待したのだが、本当に水原は煮詰まっていたのだった。
「関係性ねぇ」
水原は椅子にもたれかかった。虚空を見上げてため息をついた。
「いま、この状況じゃ出てこないよなあ」
水原は頭の後ろで腕を組んで目をつぶり、つぶやいた。
「気に入らないねぇ」

『だめだった』
翌朝、源田から水原に電話が入った。
「山口と服部はつながりませんか」
『ああ、山口が覚醒剤を売っていたのは間違いないんだが、服部の名前は出てこない』
「ふうん」
『山口の客筋ってのはどうも中学生らしいんだよ』
「流行ってるもんねぇ」
『この街にも近所の都心部から外国人が大量に流れてきてる。山口のブツの出どころもそんなところだろう。県も市も重点課題と捉えてるようだ。早急に対策を立てないと市長も次の選挙が危ないらしいぞ』
「わかった、またなんか情報あったらちょうだい」
電話を切ると茜が声をかけた。
「あの校長先生も選挙に出るんだって?」
「ああ、そろそろ勇退して準備に入るらしいぜ。イジメ対策に熱心なんだってよ。アカネの学校の校長もそんな人だったらよかったのにな」
「ああ。いまニュースサイト見てるんだけどさ、あの校長、野党第一党の公認で出るんだってよ。これってこの間合併してできたばっかりの党だよね。最近多くない? 政党の分裂とか合併とか」
「年金でもめたあとの参議院選挙以来だな」
「プロレス団体か銀行なみにくっついたり離れたり」
「政党の離合集散もブームっちゃあブームかね」
茜はしばらく考えた末、水原に声をかけた。
「あのねピンちゃん。あたしバカみたいなことあれから考えてたんだけど」
「なんだよ」
「あのね、先に殺された4人と最後のひとりの関係性について。あたし、なんだかわかっちゃったような気がするんだ。ほんと、バカみたいなことなんだ。笑わないでね」
「笑わない。なに? ちょっとでもなんか違う角度からの話がほしいところなんだ」
茜は自分の思いつきを話した。
水原の顔色が見るみるうちに変わっていった。
「…………、あ、アカネ。それ、たぶんあたりだわ。関係はないんだ。ただ接点はあったんだ」
水原は部屋の中を歩き回って考えた。決着がつきそうだった。
「アカネ、ちょっと調べてほしいことがある。頼んでいいか?」
「ぎょい」

午後、水原は源田を呼び出して、城東高校に向った。
池ケ谷康治校長に面会を申し込むと、すんなり校長室に通された。
「2年前の事件」
水原はそう切り出した。
「死んだ木戸充くん。彼と西村浩二、上野茂和くんの3人は同じ中学の出身ですね」
「ええと、はいはい、そうです」
校長はやはり愛想がよかった。
「一方、山口弘、玉田雄一郎、秋葉健一の三君も同じ中学の出身。そして西村、玉田の両君は小学校が一緒。中学卒業後、山口くんは就職し、西村、玉田、秋葉、上野の四君がこの学校に入学した。間違いないですね」
「よくお調べですね」
「その5人と服部大輔の接点って、なんでしょうね」
「や、山口が覚醒剤を彼に売ってたとか?」
「山口が覚醒剤を売ってたこと、よくご存知ですなあ。ここの生徒でもないのに」
「それは新聞に出てましたよ」
「ま、それはちょっとこっちに置いといてと。あのですね、警察の捜査というのは、実はみなさんが思ってるほど迅速ではないんです。ウチの探偵社のほうがずっと早い」
源田が少し気を悪くしたか、苦笑をもらした。
茜がまあまあ、と抑えに入る。
「……、といいますと?」
「山口と服部の間に覚醒剤絡みの関係があったかどうかは、まだ全然つかめていないんですなあ」
「…………」
「けどね、校長先生。もっと確かな接点が被害者の5人にはあるんですよ。それは……」
水原は校長を見据えた。
「救いようのないほど悪いヤツらだ、ということなんです」

茜の発見は、実にそこだった。同級生をイジメ殺して平気な、その被害者の心情を自分の身にあてはめてみると体中が痛くなるようなとんでもない悪いやつら。それに自販機荒らしの常習犯。救いがたい悪いやつらばっかりじゃないか、茜はそう水原に話したのだった。
アカネの学校の校長もそんな人だったらよかったのにな、そういわれて、もしそうなら、あたしならどうする。
茜はそう考えたのだった、手はそんなにたくさんないのだ。
もし犯人を探し出しても、呼び出して殴り倒せば体罰だとして訴えられる、叱ったところで捜査権もないのに「証拠を出せ」ととぼけるだろう。そんなときあたしならどうするだろう。こいつらの所業だとはわかっている、けれど自分では何もできない。
イライラがつのったら、あたしならどうするだろう。
あたしなら…………。
茜はそれを考えた。
騒動の渦中にあったとき、首謀者を、加担した生徒たちを、問題をすりかえてトカゲのしっぽのように自分を切り捨てた校長を、一番事情を知っていたはずなのに守ってくれなかった加島先生を、できることなら殺してやりたいとすら思っていた。
だから水原に話してみた。
「アカネ、もういま思いっきり抱き締めてキスしたいわ」
「慎んでご遠慮いたします」
「ケチ」
「そういう問題じゃないっ!」
という会話が、午前中、水原一朗探偵社でかわされていた。

「あの、ははは、つまり、犯人は正義の味方なのだと、そうおっしゃるわけですか。はははは」
「そのとおりなんです」
水原は、そこ、笑うとこじゃないよ、という真面目な表情でいった。
「犯人は、正義の味方なんです」
水原はソファから立ち上がった。話しながら窓際に歩を進めた。
「正義の味方には、木戸を殺した5人を許せはしなかった。その後も素行がちっとも直らなかったから。殺してやりたくなった。なぜか」
水原は窓の際に立って、野球やサッカー、テニスなどの練習に励んでいる生徒たちを見ながら話を続けた。
「そのたった5人のために、ごく普通の、毎日学校で勉強をして、スポーツを楽しんで、友だちを作って、恋をして…………、そんなあたりまえの生徒たちが徐々に徐々に悪いことに染まっていく姿、その姿を毎日毎日、この窓越しに見ていたから。それはイジメや非行、学業だけに留まらず、人間教育に力を注ぐ人にとってはたまらないことだったでしょう」
校長は激高した。
「あ、あなたはっ!」
「しかーしっ。ひとつ問題があったんです。正義の味方は他人に罪をなすりつけてはいけない。5人が次々殺されていけば疑われる人が出てしまいます。だからプレートのペンダントを奪い、覚醒剤を盗んだ」
校長がじっと水原をにらんでいた。
「木戸さんに迷惑かけちゃいけませんもんね」
水原は校長に笑いかけた。
「けれど歯車は狂っていきます。玉田殺しでは目撃者の出現があって何も盗ってるヒマがなかった、そして……」
水原は再度校長を見据え、ひと呼吸おいてからいった。
「校長」
校長の体がピクッと震えた。
「いまにも息を引き取ろうかという間際に、玉田はそういったんですよね。あいにくですが『チョー』だけしか聞き取れなかったけれど。そして、上野は血の着いた指で書こうとしたんです『校長』と。残念ながら木へんと点を書いたところでこと切れてしまった」
「は、服部はなんで!」
校長は、抵抗した。
「自販機を荒らしてたんですよ、服部は。正義の味方が悪の現場を見過ごすことはできません。そして5人めがそれまでの4人と関連性がなければ、捜査を撹乱することもできるかも知れない」
水原は落ち着いていた。
「証拠は、証拠はどこにある。私は野球などせんし、バットなど!」
「ゴルフはなさいますよね」
校長は黙って水原を睨みつけた。
「ゴルフバッグのなかに、ドライバーやパターだけが入っているとは、あたしゃ思いませんけどねぇ。なんなら開けてみましょうか?」
水原と校長がにらみ合った。
「しかし」
水原はふっと笑っていった。
「正義の味方、ってのはいまどき流行りませんなあ」

「最近お見限りね」
昭和カフェにいくと太子橋今市がそんな言葉で出迎えた。
「ピンちゃん怒ってた? ぼくがいろいろいったから」
「いや。ただ忙しかっただけだよ。それこそいろいろあってな」
ドアが開いて茜がやってきた。
「ピンちゃんやったぜ。今回のギャラ、県警本部から25万ぶんどってやった。プラス経費ぃっ」
「25万? なんで?」
「だって特殊人物捜索業務だもん。一番高いんだよ。こっちからクビ突っ込んだわけじゃないしね。ゲンさんにねじこんでやった。本来あんたたちがやるべきことをピンちゃんがやったんじゃん。4、50万もらったっておかしくないって」
「おっそろしいやっちゃな」
「イマイチさんにおそわったんだもんねっ、商談は?」
『気魄っ!!』
茜と太子橋が声をそろえた。
「おー、これで今月もなんとかなるぞ」
「アカネぇ、喜んでるところ悪いんだけど、そうもいかんのだわ」
「え、なに? なんで」
「Black Impulsにアカネを探し出してくれた礼をせにゃならんのだわ。ここでイマイチが懸命に安くしてくれたところで、40人からの食いざかり呑みざかりが来るわけだ。間違いなく半分は飛ぶな」
「そんなあ」
「だれのせいだよ」
「はいっ。ほんじょーあかね、ブラックホールより人のいうこと吸収しますっ。反省してますっ」
ホントかよ、とつぶやき、ニヤッと笑ってから水原はメコンをあおった。


【第七話・了】

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