【No.6 リロのグルメ紀行】   [ 実夢  作 ]

ちゃんちゃらちゃんちゃんちゃんちゃらちゃーんちゃんちゃらちゃんちゃんちゃららららー
「まもなく新大阪、新大阪…」


三原は新幹線を文字通り飛び降りた。
「あぁ新大阪の空気だー。」
この2ヶ月、どれだけこの日を待った事か。

4月のある日、三原邸の電話が鳴った。中学時代の友人からだった。
「おぅ!めちゃくちゃ久しぶり!元気だったか?いつ以来かな?今何してるの?」
と一通りの挨拶をした後友人が言った。
「6月30日に大阪市内のホテルで結婚式をするんだけど来てくれるかな?」
「へっ?今、大阪で生活してるの?」
「そうなんだよ。2年前に転勤にな………」
三原は友人の言葉はもう耳には入ってなかった。受話器を持ちながら目は阪神タイガースの試合日程表に行ってた。
「お、お、おめでとう!!ぜひ出席させてもらうよ!いやぁ、おめでとう!!本当におめでとう!!!で、交通費は出るの?」
と、せこい事を聞いていた。

三原は1泊2日の旅のスケジュールを早速立て始めた。
6月30日は甲子園でT−G戦。試合開始は18時。
結婚式は大阪・梅田で11時30分から。余裕だ。
友人曰く朝一番の新幹線に乗って大阪に着けば十分に日帰り出来る時間帯の式なのだが
三原の強引な説得で前泊を認めさせた。
もちろん交通費、宿泊費は友人持ち。してやったり!さすがは俺だ。いい男だぜ。
いやいや、そんな事よりこの『一泊二日大阪ツアー』をどう有意義に過ごすか、それが問題だった。
いや、それより先に問題がある。
2日連続で休みなんて取れるのか?俺。


6月29日火曜日 仏滅

始発の新幹線に乗ろうとして三原がホームに立っていると、ポンと肩をたたかれた。
町内猛虎会の副会長だった。
「副会長!どうしたんですか。こんな朝早くに!」
「いや、おはよう。実は会長が聖地に行くと言う話しを聞いてからメンバーがこっそり集まって、よりいっそう会長に楽しんで来てもらおうと言う話しになってね。黙ってたのですが、会長、ぜひこれを聖地で使ってください。町内猛虎会のメンバーで一生懸命作りました。」
と言って大きな紙袋を手渡した。紙袋の中はこれまた大きな風呂敷で包まれて中身はわからなかった。
「これは?」
「プラカードです。」
「プラカード?」
三原は困惑した。
「しかしプラカードを持っての応援は後ろの人が見えないから俺は嫌いなんですよ。例え胸の前で持ったとしても俺は背が低いから選手に見てもらえるかどうか…。あっ、いや、でも嬉しいですよ!せっかくだから使わせていただきます。イニングの交代の時や試合終了後とか、他の人に迷惑にならないように是非使わせてもらいます!ありがとう!」
「いやぁ、そう言ってもらえると嬉しいですよ。実はワシ達も明日『昭和カフェ』でプチPVするんです。テレビでですけど、巨人戦なら全国放送ですからね。」
「そんな計画までしてたんだ。さすがは副会長ですね!じゃあ明日は是が非でも勝ってもらってこのプラカードを使いたいもんですな。ワハハハハ!」
「あっ会長、新幹線来ましたよ。それじゃあお気をつけていってらっしゃい。」
町内猛虎会の会長と副会長はガッチリ握手して別れたのであった。


新大阪から大阪市内のホテルに移動した三原はチェックインには早すぎるので荷物を預けて早速スケジュール通りに行動する事にした。

最初に目指すは阪神百貨店のタイガースショップ。
そこはホテルから歩いて行ける距離である。
エレベーターに乗り8階に着く。

歩いて行くとタイガースショップが見えてきた。
「へ、平日だと言うのに何だ、この賑わいは…!」
そしてタイガースグッズの数々。「どうしよう…。欲しい物がありすぎる…。」
三原はあっちに行ったりこっちに来たり物色し始めた。
「そうだ。町内猛虎会のメンバーは俺の為にプラカードを作ってくれたんだ。お土産を買うのは当たり前だな。けして俺のじゃない。いらない、と言われれば俺が使えばいいんだ。えーと、メガホン、ナンバージャージは元々自分で買うつもりだったし、ジェット風船、これは貰っても皆迷惑にはならないだろう。副会長には特別に湯飲みセットも買っておこう。副会長は謙虚だから『ワシは風船だけでいいよ』と言えば俺が茜ちゃんと1個ずつにすればペアだ。よしよし。昭和カフェのイマイチさんには提灯かな。これもいらないと言えば俺が部屋に飾ろう。それと…」
三原はブツブツ言いながら自分が欲しい物を人のお土産と言う名目で買い込んで行った。

タイガースショップを満喫した三原は重い荷物をかかえて次の目的地に向かった。

ちょうど昼時。三原はスケジュール表を見た。
第二の目的。それは“ほっとこーなー”で昼飯を食べる事だった。

地下鉄に乗りバスに乗り継ぎ調べていたバス停で降りる。
バスの中からチラっと見えた。“お好み焼き ほっとこーなー”
憧れの掛布がオーナーをしてる店。いつかここでお好み焼きを食べてみたかった。
重い荷物をかかえて三原は緊張の面持ちで店に入った。

したたり落ちる汗を拭きながら三原は感動していた。
あの“掛布”が作った店に自分が今座ってる。そして広島焼きを注文している。
心臓がなぜかドキドキしてる。オーダーをする目が泳いでるのが自分でもわかる。
足元にタイガースショップで買い物した袋が置いてあるので店員にはきっとミーハーに映ってるに違いない。それでもいいのだ。
そして広島焼きが来た。出来立ての広島焼きをひとくち口にしてみる。

ああ〜俺は今掛布を食ってるんだーーー!!

…違う。掛布がオーナーをしてる店でフツーのお姉さんが焼いてくれたお好み焼きを食ったんだ。
そう思うと冷静になってきた。三原は一気に食べてしまいお冷やをガブリと飲んだ。
両手を合わせて行儀良く「ごちそうさま」とつぶやいてお金を払うとさっさと店を出た。
やはり緊張していたのか外に出ると「はーはー」と肩で息をした。
「吐きそう…。俺は何を緊張してるんだ。結局店の雰囲気も味も楽しむどころではなかったなぁ」
そう言って携帯を取り出し“ほっとこーなー”の看板を写真に撮り待受け画面にした。
三原は幸せだった。

「よしっ!次だー!」

三原は再びバスに乗った。
「ここがロマンチック街道と言う道かぁ。へぇ〜。何がロマンチックなんだろう。いつか茜ちゃんと夜にでも車で走ってみたいなー」
あれこれ考えてるうちにバスは目的のバス停に着いた。

今度の店はケーキ屋。
ケーキと言ってもロールケーキの専門店。
ここは昨年テレビのバラエティ番組で掛布が司会者にお土産として渡したロールケーキの店だ。
掛布が「家の近くで一番美味しい店」と司会者に渡し、司会者も「今まで食べたロールケーキの中で一番!」と大絶賛。
そのロールケーキを是非食べてみたかったのだ。

「ん?」
店先に【本日のロールケーキは売り切れました】の案内板。
「な、なにぃ〜??」
三原は店の中に入って行った。先客がひとり居たが三原はかまわず
「ロールケーキないのですか?」
「はい。当日販売分は全て売り切れとなり後はご予約の方のお渡しのみとなってます。」
「えっ?予約のお渡しのみ??……マジかぁぁーーー!!」
掛布がテレビで言ったくらいだからその数週間、いや数ヶ月はそういう状態も予測できたが、もう半年以上もたっているのに!!

三原はガクーンとうなだれた。
「もうひとつも余ってませんか?キャンセル分とか…。遠方からわざわざ来たのですよ。まさかそんな事とは知らずに…」
店員も「申し訳ございません」と言うしかなかった。
その姿があまりにも哀れに見えたのか先客で居た御婦人が三原に声をかけた。
「あの、大丈夫ですか?」
「は、はぁ…」
「ここのロールケーキ人気があるのですよね。予約も一人二個までだし。私も予約の電話がやっと繋がって今日取りに来たのですよ。私はこの近郊に住んでますので又予約する事もできますし、今日も二本予約したので宜しかったら一本お分けいたしましょうか?」
三原の目がキラーン!と光った。
「ええっ!」三原は御婦人の両手をガシっと握り
「お、お言葉に甘えてもよろしいのですか!?本当に?ありがとうございますっ!」
つばきを飛ばしながら頭が膝に付くくらいお礼をした。

ケーキをゲットして店の外に出た三原は先に店を出た御婦人を見つけた。
「あっ、そうだ!」と思い婦人を追いかけた。
「ミセス・マダム、いやミス・マダムですか?いやどっちかわかんねーや。そんな事より先ほどは本当にありがとうございました。よかったらこれを。」
と言ってタイガースショップで買った紙袋からひとつランダムに取り出し御婦人に渡した。
「いいのですよ…」と言う声もきかず三原はバス停に走って行った。自分が良い行いをしたかのような錯覚に陥るご機嫌な三原だった。

マダムがもらった物はタイガースロゴ入り提灯だった。

三原は第4の目的地に着いた。
「おもしろい駅名だな」と思いながら駅員にその場所を尋ねてみた。
その場所とは…
これも昨年末テレビでやってた『タイガースの選手がご贔屓の店』と言うもので
アリアス選手ご贔屓のステーキハウスと言うのも魅力的ではあったが財布の中身がついて行かない。
そこで選んだのが“矢野夫妻御用達のパン屋”だった。
そのパン屋はこじんまりとしていた。
矢野夫妻は「コロネ」がお気に入りらしい。
テレビで見た通り、空のコロネを見つけ二つレジに持って行き、中にチョコとカスタードをひとつずつ入れてもらう。
たった200円ちょっとの買い物だがそれでも三原は嬉しかった。

缶コーヒーを買い近くの夙川(しゅくがわ)公園でパンを食べてみる。
サクサクしておいしかった。
ベビーカーや犬を連れた散歩人が多くなってる。
「もう5時か。」
シモさんも愛犬を連れてここを散歩するのかなぁ。

ここは聖地のお膝元なんだ。しみじみと思った。

「さて、ホテルに帰ってナイターでも見るか。」
心地よい疲労感が三原を包んでいた。


6月30日水曜日 大安

結婚式は滞りなくお開きとなった。
妄想と居眠りとコース料理で三原は十分に満足していた。
三原は新郎にありきたりの祝福の言葉を言いながら時間ばかり気にしていた。
昔の友人達と喋るのは楽しいし盛り上がる。しかし俺はこの後甲子園に巨人戦を見に行くのだ。
2次会に誘われるのを笑ってごまかしてみたが、交通費宿泊費を出してくれてる新郎、更に“三原”の友人が帰らせてくれるわけがない。さらわれる様にカラオケに連れて行かれてしまった。

カラオケから開放されたのがなんと5時半。
開門に入場したってどうせ巨人の練習風景ばっかりだ、と自分を慰めながら阪神電車に向かった。
電車の中はナンバージャージを着た親子連れや友達グループ。メガホンを10個くらいぶら下げてる金髪のお兄ちゃん。イヤホンを突っ込んでるオヤジ。
タイガースファンだらけの阪神電車。満足な三原だった。

「甲子園」駅に着き改札を抜けるとそこは“阪神タイガースの街”だった。

歩くスピードが自然と速くなる。テレビで見た事のある風景を今自分の目で見てる。
ガード下を抜けると緑の蔦が絡まる甲子園球場が見えた。
同時にラッパや太鼓、歓声が聞こえる。
カクテル光線が夕闇の球場内を照らしてる。

あっ!テレビ中継車!!俺をインタビューしてくれ!いや、そんな事はどうでもいい。
とにかく入場するのだ!しかーし1塁側アルプス席、遠すぎだ〜!!

3回表を終わって0−4で負けてる。
一人甲子園。そして惨敗?やめてくれ!
そうだ、今昭和カフェでもプチPVをやってるはずだ。副会長に貰った紙袋、結局一度も見ずに来てしまった。今出す訳にもいかないし、とりあえず甲子園名物のカレーとイカ焼きを食ってくるか。

一度は同点に追いついたものの7回表に1点取られて再び4−5。

7回裏。三原はテレビ観戦の時はラッキーセブンの風船を「やかましいわっ!」と怒っていたが今は両手に全部で4つの風船を持っている。
ファンファーレが終わると「ぴゅー」と言いながら風船を飛ばしトラッキー、ラッキーに手を振っていた。
その7回に相手のエラーで同点となりいよいよ9回裏の攻撃。
三原は興奮していた。

サヨナラのチャンスに金本の打球がセンターに抜けた時は三原の右手はグルグル回っていた。走れ!走れ!赤星!!
やったー!!サヨナラ勝ちだー!
横の席のオヤジと抱き合った。前の席のおばさん軍団全員と抱き合った。後ろの若者達にメガホンで頭をボコボコに殴られたがそれでも最高だった。

ばんざーい!ばんざーい!!ばんざーい!!!

三原は最高潮に興奮していた。万歳三唱も六甲颪も歌った!後は…
「ああっ!そうだっ!」

昭和カフェのプチPVも盛り上がっていた。
「いやぁ、会長最高の試合でよかったですね。今頃大興奮じゃないですか?」
とワイワイしてるとテレビが観客席を移した。
副会長が叫んだ。
「あっ!ワシ達が作ったプラカードだ!会長が映ってる!」

そこには岡田監督が胴上げされている2004.9.5「夢の日付 第二章」と書かれた大きなプラカードがピョンピョンと跳ねていた。




-- No.6 END --

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