【第6回:孤軍奮闘のザトペック投法、一滴の雨に泣く〜1970年6月20日】   [ アーチスト田淵  作 ]

◇甲子園(巨人6勝3敗1分) 観衆:3万7千
巨 人002 000 000=2
阪 神000 000 000=0
 勝:高橋一 4勝3敗
 負:村 山 1勝2敗
 本:王21号(村山)

<巨  人>    打 安 点 振 四   <阪  神>   打 安 点 振 四
(7)高  田   4 0 0 2 0   (7)藤  井   2 0 0 2 0
(6)黒  江   4 1 0 0 0    H7佐  藤   3 0 0 0 0
(3) 王     1 1 2 0 3   (4)54安 藤  4 0 0 1 1
(5)長  嶋   4 1 0 0 0   (6)藤田 平   4 1 0 0 0
(8)柴  田 4 0 0 1 0   (8)バレンタイン4 1 0 1 0
(9)末  次   2 0 0 1 0   (3)遠  井   3 2 0 0 0
 H 萩  原   1 1 0 0 0   (2)田  淵   2 0 0 2 2
9 才  所 1 0 0 0 0   (9)カークランド3 2 0 0 1
(4) 滝     2 0 0 0 0   (5)後  藤   2 0 0 1 0
4 土  井 2 0 0 0 0 H 池 田  1 0 0 0 0
(2) 森     3 0 0 0 0 4 鎌 田   0 0 0 0 0
(1)高橋 一 2 0 0 0 0     H 山 尾   1 0 0 1 0
 1 高橋 明    0 0 0 0 0 5 大  倉  0 0 0 0 0
 1 堀  内    1 0 0 0 0 (1)村  山   2 0 0 2 1
                     H  辻    1 0 0 0 0

     回  安 振 四 責            回  安 振 四 責
高橋 一  5  5 7 2 0        村  山  9  4 4 3 2
高橋 明 1/3 0 0 0 0
堀 内 32/3 1 3 3 0

二塁打:カークランド、萩原

                  *  *
 1970年のプロ野球界は、「黒い霧」事件に揺れた。前年の10月、西鉄・永易将之投手が野球トバクに関与していたという球団の発表で明るみに出た八百長疑惑は、やがて球界全体を巻き込む大事件へと発展していった。
 この「黒い霧」では、阪神も痛手を被った。まず、5月に、かつて「大毎ミサイル打線」の一員として活躍し、この年に中日から移籍してきた葛城隆雄が、オートレースの八百長に関与した容疑で逮捕され、シーズン終了後まで出場停止(その後退団)。そして、6月には、エースの江夏が、暴力団幹部との交際があったことが判明。6月18日から30日まで謹慎処分となった。

 阪神は、5月までは巨人、広島と三つ巴の首位争いを展開していたが、6月に入って、両チームとの直接対決に6連敗。首位巨人に6ゲーム差と離されて迎えた甲子園での2連戦は、どうしても負けられない試合となった。
 しかし、いつもなら先陣を切るはずの江夏は謹慎中。この非常事態に、村山が自ら先発のマウンドに立った。持病の血行障害のため、開幕から調子の出なかった村山は、この日が実に13日ぶりのマウンドだった。
 対する巨人の先発は、「阪神キラー」の高橋一三。

 小雨の中、村山は投げた。いつも悲壮感を漂わせる彼のマウンド姿だが、この日はさながら、チームを覆う『黒い霧』を懸命に振り払うかのように、懸命に投げ続けた。好調のONを中心とする巨人打線をわずか4安打に抑える。しかし、力投も空しく、たった一球の失投に泣くことになる。

 3回表、巨人は2死から黒江がヒットで出塁し、王が打席に入る。この試合まで、45試合で20HR、37打点はトップ。打率ランキングでも、遠井に次ぐ2位と好調である。村山にとっては、この日の巨人打線の中で、最も警戒する打者だ。
 1−0からの2球目、村山は低目にカーブを投げようとしたが、この球がほとんど変化しないまま真ん中高めに入ってしまった。この失投を打撃好調の王が見逃すはずがなく、バットを振り切ると、打球はライトのラッキーゾーンに飛び込む先制2ランとなった。
 「カーブを投げようと思ったのが、ボールと親指の間に雨が一滴入ってしまった。そのためすべって曲がらなかった。フォークボールだったら…」と悔やむ村山。

 これで勝負は決まった。阪神は6回、好投を続ける高橋一がバレンタインの打球を右膝に受けて降板した後、2死満塁のチャンスをつかむが、代打の池田がリリーフの堀内の前にライトフライに倒れ、無得点。その後も打線が沈黙し、0対2で敗れた。

 無念の敗戦に終わった村山だが、試合後、「(江夏の謹慎が解けた後)自分もローテーションに入って巻き返す」と、新たな闘志を燃やした。この言葉通り、村山は、その後、13勝(1敗)をあげ、最終的に、14勝3敗、防御率0.98という驚異的な成績を残した。そして、陣頭指揮に立つ背番号11に引っ張られるようにして、チームも夏場以降に巨人を猛追し、最後まで激しい優勝争いを繰り広げた。

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