【3章】   [ 月ふたつ  作 ]

時間は、あの夜、キリコが佐田美緒からの電話を受けた夜。
ショウはいない。
キリコは一人で美緒からの電話を受けている。

「じゃ、なんで、あいつは私を抱かないの?」

美緒は高笑いの後に、自信に満ちた声で言った。
「分かってるじゃない。あいつは誰のものか、キリコさん、アナタがわかってるじゃない。それがある限り、あいつはアナタの者はならないわ」

キリコは、ハッと我に返った。
「アイツハ アナタノ モノニハ ナラナイ」
声が戻ってきた
「私はあいつを自分のものにしたかった?」
キリコは激しく首を振った。
「違う・・・違う、抱かれたかったけど・・・違う。私は試してみたかっただけ」

キリコは受話器を当ててる耳を替えた
「奥さんよね。」
「そうよ、アイツはしょせん、奥さんが一番、自分の巣が一番、結局それは壊したくないのよ」

キリコは頷いた
「そうね、よく分かったわ」

分かったことは・・・一つ。ただ一つ。
「結局、意気地なしってことね。アイツ」

美緒はちょっと躊躇した。ん? ここは「だから奥さんは邪魔だ」というセリフのはずだが?
気を取り直して美緒は続けた。
「どう? 私の話、興味ある?」

キリコは返事をした・・・が頭の中では全く違う自分が目覚めた。
「ふふふ、おもしろいわ」

適当に返事をしながら、キリコは化粧ポーチを探った。
薄いルージュをコットンでぬぐい、受話器を持ち替えながら目当てのものを探した。
「あったわ」
それは、買ったきり、一度しかつけたことはなかった。
真っ赤なシャネルのルージュ。

電話が終わった後・・・
キリコは薄い色のマニキュアを落とした。化粧ボックスを開け、とっときの一本を探す。
赤いマニキュアを丁寧に塗る。
「意気地なしのアイツのアシスタント、冗談じゃない。所詮私がいなけりゃ大した仕事もできないアイツについてるだけで終わらないわ。そうよ、美緒っていったっけ。アイツみたいな意気地なし、自分のものにしたって何になるの? 奥さんが邪魔? そうもっていきたかったみたいやね。冗談じゃない、邪魔なのはアイツ。もうアイツのセカンドなんてごめんよ。私がトップに立てるかも。そのチャンスかもしれないわ、そうよ、私はまだ若い。私は私のモノなんよ」

キリコを目覚めさせた。その意味では美緒の意図したとおりだった。
ただ、方向が違ったのだ。

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